2017年8月7日月曜日

長谷川龍生「理髪店にて」②

詩「理髪店にて」は、前半13行と後半8行の2連から成っています。舞台は「新宿のある理髪店」。散髪の客が鏡の前に座って、何やら話をしながら理髪師に剃刀をあててもらっています。

その話の内容が、いきなり誘い込むような書き出しで1連目の13行で語られます。客が口にしていた「そんな話」は、いまの感覚からすると、床屋の世間話にしてはなんとも重苦しい。


「潜って」いたら、海に沈んで「青みどろに揺れる藻」に包まれて横たわる「鳥海」という巡艦を見つけた、というのです。

1連目の主役は、その「鳥海」。2連目のほうは、後に折った剃首の肌を滑っていく「なめらかだが光なみうつ」西洋刃物でしょう。

海の中にある重々しく巨大な残骸となった軍艦と、生きている人間の首をすっすっすうっと走ってゆく危うい刃物が、言葉を通して鋭く交わりあいます。

戦後、だいぶ経ってから生まれた私にとっては、戦艦といわれて姿形をなんとなく察することができるのは情けないかな、「大和」くらいなものです。そもそも「鳥海」とは如何なるものだったのでしょう。

「鳥海」は、全長204メートル、全幅19メートル、排水量1万3千トン、乗員760人の重巡洋艦だ。名前は、山形と秋田の県境にある火山、鳥海山(2236メートル)に由来しています。

長谷川龍生が生まれた昭和3(1928)年に、三菱造船長崎造船所(現・三菱重工長崎造船所)で起工。昭和6(1931)年に進水、昭和7(1932)年に就役しています。

昭和17(1942)年、ガダルカナル島へ向け出撃し第1次ソロモン海戦に参加。昭和19(1944)年にはマリアナ沖海戦、レイテ沖海戦などに参戦した後、10月25日のサマール沖海戦でアメリカ艦隊と交戦して最後を迎えました。

米駆逐艦、護衛駆逐艦からの砲撃と護衛空母「カリニン・ベイ」の艦載機による攻撃で、右舷船体中央部に被弾、甲板に装備した魚雷により機関と舵が破壊され、戦列を離脱。

さらに、艦載機部隊の攻撃で、機関室の前方に500ポンド爆弾を浴びて大破。その日のうちに駆逐艦「藤波」の魚雷で処分されています。

乗組員は「藤波」に乗り移りましたが、「藤波」もその後の空襲で撃沈。両艦の乗組員全員が戦死しています。

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