2017年7月9日日曜日

日夏耿之介「騒擾」「雲」

きょうも『転身の頌』から二つ詩です。

   騒擾

騒擾は 高きより来る
黎民(ひとびと) 聾(みみし)ひたるか
聾(みみし)ひなば 眼(まなこ)をみひらけ
薔薇(さうび)の花の紅(あけ)をうれしみ
八月の日の日の光の銀色にうち興じ
深く谿間黒燿の黝(くろず)めるをめでよかし
眼(まなこ)疲れなば 爾が嗅官(きうくわん)を使用せよ
かの味識(みしき)にても事足れるを
爾は訖(つひ)にその黄ばみ波うてる肌膚(きふ)の
かのいと荒き感触を斥けむと欲(ほ)りするか
輪環(りんくわん)の久遠をめぐりめぐりて
天上より降り来るかの騒擾(どよもし)を如実(まま)ならしめよ
または 爾の生をして 一旦
かなたに住居せるかの嬌憐と媾引(あひびき)せしめよ

   ◇

「騒擾」(そうじょう)は集団で騒ぎを起こし、社会の秩序を乱すこと。

「黎民」は、一般人民、庶民、万民。

「輪環」は、数学的には、ドーナツのような形をしたトーラスのことをいいます。


   雲

戦闘は大気緑明のもなかに在り
夙(と)く参加せざらめや
赤く爛(ただ)れし裂傷を繃帯(はうたい)し
その輝く銀冠を逆立てるよかし
日に涙(なんだ)あり
微風の跑(だく)を趁(お)ひ従(お)ひて
おんみは一万尺の巌頭(がんとう)に来り彳めり
おんみは戦線杳(はる)かに濁血(だくけつ)の不可思議を聴く
軟かき足なみを攮(ぬす)めよかし
泪ぐめる夕暮方は早も波打ち来れり
かくて夜の捷利必ずこれに次がむ
おんみは今や形態(かたち)なき白馬(はくば)の手綱を牽(ひ)く

   ◇

「跑」は、走る、駆ける、逃げる、歩く、奔走する、駆けずり回るといった意。

「攮」は、本来は(短剣や銃剣で)突き刺すこと、短剣、あいくちのことをいいます。

「捷」は訓読みで、かつ、はやい。「捷利」(しょうり)は、勝利と同義です。

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