2017年7月6日木曜日

日夏耿之介「夜の思想」「紅宵」

 きょうも『転身の頌』から二つの詩を読みます。   

   夜の思想

なにものかあり 鬨声(ときのこえ)はわれを連行(はこ)ぶ

われは 瓦斯体(がすたい)のごとく揺曳(えうえい)す
われは 数多(かずおほ)くの世界とその前後(あとさき)とを瞥(み)たり

昏瞑(やみ)はしばしば悲鳴をあげ
その下霄(しもぞら)に黄色の月ひとつ泛べる
微風(そよかぜ)は心をして温情ならしむ歟(か)

あはれ おびただしきわが心の産卵哉

   ◇

「揺曳」(ヨウエイ)は、ゆらゆらとただようこと。また、音などがあとまで長く尾を引いて残ること。

「昏瞑」(コンメイ)は、暗いこと、暗くてようすのわからない意。


   紅宵

野にいでて
淑(しと)やかに
吐息(といき)すれば
昊天(そら)は沈み
地は臥(ふ)しまろび
落日(いりひ)のみ
きらきらと
世界に膨張(ふくら)む

   ◇

題の「紅宵」はコウショウと読んでおこうと思います。

「昊天」はふつう「こうてん」と読んで、夏の空、広い空、大空のことをいいます。

「まろび」は、まろぶ、転ぶ。ころがる、ひっくりかえる、倒れるといった意味です。

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