2017年7月5日水曜日

日夏耿之介「白馬の歌」「洞穴を穿て」

きょうも『転身の頌』から二つの詩を読みます。   

   白馬の歌

稚(いとけな)き造化(もの)われら
敬虔(けいけん)の心一途(いちづ)に捧げまほしく
薄暮(はくぼ)の河畔にぬかづく
きみの白馬(はくば)にうち騎(の)り
殉情の星より僥倖(げうかう)のごとく降(くだ)りたまへる
岡巒(やま)も艸木(き)も深林(もり)も野もいま怡悦(よろこび)に顫(ふる)へたり
瞳は繊(かぼそ)く麗はしく柔(やさ)しげに謙仰しつつ
爾が崇貴(けだか)き白馬を仰ぎ胆望(み)たり
烏呼(ああ) なのものの痴言ぞ 蕪穢(ぶわい)するは
跪坐して久しく己(おの)が脈搏をとるわれに
なにものぞ これ亡びゆく枯葉(こえふ)のみ
爾(きみ)は遠来(きたれ)り
白馬の騎士 至上なるもの
もろ手もて爾(おんみ)を抱擁(いだ)かむ

   ◇

「巒」は、音読みでは「ラン」、やまなみ、山の連なり、峰を意味します。

「蕪穢」は、雑草などが生い茂って、土地が荒れていることをいます。 「最も近き道は、最も蕪穢なるものなり(西国立志編 )」


   洞穴を穿て

暟(しろ)き朱明(まなつ)の高原にいと深き洞穴を穿て
雲雀(ひばり)は露けき叢(くさむら)に狂ひ
地蜂は垂直に出陣すなるを

大いなる洞穴を穿(うが)ちをはらば
猴利根(かしこ)く喧擾(かしま)しき老幼男女を埋没せむ
夕日 巒巒(やまやま)を血塗りて
白日のいともの静かなる殺戮もはてなば
亡きもののために夜鳴鳥は歌うたはなむ
このとき爾(きみ)は 青く悩める弦月の
神経質なる微笑に逢着するならむ

   ◇

「暟」は、ふつう「カイ」「てらい」と読みます。霜や雪が一面、白く見えるさまを「皚 皚(がいがい)」ともいいます。

「朱明」は、ふつうは「シュメイ」と読み、夏のこと、太陽をさすことも。類語に、朱夏があります。

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