2017年7月26日水曜日

日夏耿之介「うるわしき傀儡なれど」「翫賞」

 きょうも『転身の頌』から二つ詩を読みます。

   うるわしき傀儡なれど

うるはしき傀儡なれど
みにくかる生存なれど
わが右手(めて)の脈搏を相応(ふさは)く乱調せしめ
わが小むねの赤き血汐を溷濁(こんだく)せしめ
わが青春の光ある肌膚(きふ)を窘蹙(きんしゆく)せしめ
つひにわが肉体より
力と美とを駆り落し
すべて
まことわが心を圧死せしむ

うるはしき傀儡なれど

   ◇

「溷濁」は、混濁と同義で、いろいろなものがまじってにごる、といった意味がありますが、「溷」は、川の流れの上に作った小屋の意からか、「かわや」とも読まれます。

「傀儡政権」などといわれますが、「傀儡」は、あやつり人形、くぐつ、でくのこと。また、自分の意志や主義を表さず、他人の言いなりに動いて利用されている者のことをいいます。

「窘蹙」は、すくむ、ちぢまる状態。



   翫賞

われ旃(これ)を嗜む
この婉美(えんび)なる無思念とその弾力ある激感と
戯謔(ぎぎやく)好きなる鮮血を珍蔵する腿肚(こむら)と
かなたこなたなる自由なる表皮の磁力と温度とを
旃によりて涙感するは
呂(べえぜ)によりて出産する法悦と
抱擁の醗酵する解脱と
電光のごとき人間神化の痙攣のすべて也
されど ああ 夙く小夜の出牕を闔(と)ぢて
かの紅法衣よりほの瞥ゆる
旃が内なる世界をしていと熟睡(うまい)せしめよ

   ◇

「翫賞」は、風景・美術品などを味わい楽しむこと、鑑賞。

「戯謔」(ぎぎゃく)は、たわむれ、おどけ。「こは、固 (もと) より戯謔に過ぎざりき」(鴎外訳「即興詩人」)

中国語では、ふくらはぎのことを「小腿肚子」というようです。

「呂」(りょ)は、中国や日本の音楽理論用語で、中国では、12律のうち偶数番目にあって陰性をもつと考えられていた6個の律をいいます。日本では雅楽や声明の音階の1つを意味します。

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