2017年7月11日火曜日

日夏耿之介「羞明」「訪問」

 きょうも『転身の頌』から二つ詩です。

   羞明

孟夏の十字街をおもへ
神ありて ここに街樹(き)を現はし
幹ありて水枝をたもち
枝ありて若葉をささげ
葉ありて果実をまもり
果(み)ありて核種をふせぎ
核ありて細胞をみとれる
細胞に性染色体のありて
稟性(ひんせい)のいとなみに勤(いそ)しめり
これ事実也
類推の至上指令ぞ
風は街頭に亡び
日輪(ひ)は高く頭上に盈(み)ち耀(かがや)き
人馬なく 鳥語なく 色相なく
物象に陰影あるなし
世界(よ)は あげて銀製の大坩堝(おほるつぼ)のみ
わが神経 かかるとき 羞明し歔欷(きよき)する也

   ◇

「羞明」は、まぶしいこと、まぶしさ、異常にまぶしさを感じる病的な状態をいいます。

「稟性」は天性。

「歔欷」は、すすり泣くこと、むせび泣きのことです。


   訪問

誰(た)ぞや 風 黒(かぐろ)きこの宵
内なる扉ほとほとと打ちたたくは
こころ 重傷して昏睡(まどろ)めり
こころ 夢の環境(めぐり)の彼岸(かのきし)に埋没(うづも)れてあり
あかき灯(ひ)のもと邇(ちか)くつどひて
わが懇切なる兄弟姉妹(けいていしまい)ら
夜(よ)の歓会(まとゐ)に酔(ゑ)ひぬるを
ああ 誰ぞ軟かき黒夜(こくや)の空気かき乱して
こころ憎くも忍び音(ね)の訪問(おとづれ)は
灯の侍童(じどう) 赧(あか)く愕ろき
淑やかに延びちぢみ
冷淡なる時圭(とけい) あしおと高く
人人 一旦に死を孕まむ
誰ぞや ほとほと 扉きしめき
物象ことごとく いま戦慄す

   ◇

「昏睡」は、現在ふつうには、外界の刺激に全然反応せず、反射もほとんど消失した最高度の意識障害のことをいいます。

「侍童」は小姓のこと。

「赧」は、あからめる、顔が赤くなる、恥じるなどの意があります。

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