2017年7月10日月曜日

日夏耿之介「真珠母の夢」「悲哀」

 きょうも詩集『転身の頌』から二つ詩です。

   真珠母の夢

こころの閲歴いともふかく
手さぐりでもてゆけば
明銀のその液体のうち
いろさまざまの珠玉あり
黄と藍は泪ぐみ
身もあらず臥(ふ)しなげき
緑と樺は泛(う)き泛きと
なか空に踊りぞめき
そこ深く黒玉坐して動かざるに
紅ひとり笑みつつもたかだかと泛み遊べり
さて 曇り玉ひとつ
泛きかつ沈み
蕩揺のしづけさに酔ふ

真珠母(しんじゆも)の夢

   ◇

「真珠母」(しんじゅぼ)は、真珠層ともいわれ、貝類などが外套膜から分泌する炭酸カルシウム主成分の光沢物質をいいます。

「樺」の読みには、かにわ、かば、かんばがあります。かんばは、カバザクラ、シラカバの古名ともされます。上代には、舟に巻いたり器に張ったりした、その樹皮をいいます。万葉集に「しきたへの枕もまかず、樺巻き作れる舟に」。

「蕩揺」(とうよう)は、ゆり動かすこと、ゆれ動くこと。


   悲哀

羸弱(るゐじやく)は この身に警策を打ち
心は 喘鳴(ぜんめい)して呼吸(いき)途絶えむ
心とともに沙(いさご)深く身を横臥(よこた)へてあれば
仲霄(そら)を別離(わか)るる日光(ひざし)うるみ
黒髪(くろがみ)おのおの寒慄(さむ)けく立ちあがり
なにものか わが家(や)を遁避(にげさ)らむとする若(ごと)し

   ◇

「羸弱」(るいじゃく)は、衰え弱ること、からだが弱いこと。

「警策」は、禅宗で座禅中の僧の眠けや心のゆるみ、姿勢の乱れなどを戒めるため、肩などを打つ木製の長さ1メートルほどの棒。

「沙」は、 すなのことです。

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