2016年5月9日月曜日

叙事詩が衰退し

ロマンセが発生した社会史的な背景は、14世紀後半から15世紀にかけてのいわゆる「中世の危機」に求められます。

当時、金融経済と商業の発達による社会の変化やブルジョアジーの台頭で、カスティーリャの封建制は深刻な危機におちいっていました。

さらに、ペドロ残酷王とその異母弟エンリーケ・デ・トラスタマラとの抗争が起こり、カスティーリャは混迷を極めることになります。

こうした内乱は、カスティーリャの文学(カスティーリャ詩)を激変させます。

それまで主流だった『わがシッドの歌(Cantar de mio Cid)』=写真、wiki=を代表とする叙事詩が衰退し、新たなジャンルとしてのロマンセが誕生したのです。


封建制の揺らいだ混乱の時代になって、封建的共同体の統一とその保持の役回りをしていた叙事詩がすたれるのは、歴史的な宿命だったのかもしれません。

叙事詩は長く手の込んだ構成のため、よほど熟練した遍歴歌人でないと語り切れませんでした。一方、長ったらしい朗唱に最後まで付き合える聴衆がそうそういるわけでもありません。

そこで自然の成り行きとして、遍歴歌人たちは聴衆の喜びそうな部分、つまり叙事詩のさわりだけを取り出して語るようになったのです。

遍歴歌人たちが叙事詩のエッセンスを抜き取り、加工して、繰り返し朗唱することで民衆に浸透し、歌い継がれていきました。

こうして、短い民衆歌謡として成立したのがロマンセだったのです。

修飾語を減らして会話を多用、劇的効果を出すため、詩が最高潮に達した時に不意に終わる「断片化技法」などが、ロマンセらしいところ。

さらに、叙事詩のような教訓性、宗教性はなくなり、悲劇的結末を迎えることが多いのも、ロマンセの特徴といえます。

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