2016年5月10日火曜日

口承文芸から活字文学へ

『わがシッドの歌』をはじめ『ベルナルド・デル・カルビオの歌』、『フェルナン・ゴンサーレスの詩』、『ラーラの7人の公子』などの叙事詩はみな、ロマンセに多くの題材を提供しています。

逆に、後世の学者が散逸した14世紀以前の叙事詩を復元しようとすると、15世紀に作られたロマンセを重要な資料として用いることにもなりました。

ロマンセが当時の民衆の間で人気を呼ぶと、遍歴歌人たちは叙事詩以外にも手を広げて題材を求め、史実や文学作品に基づかない虚構のロマンセも生み出されるようになります。

この段階におけるロマンセは、いずれも「よみ人知らず」で、口承によって大衆の間に伝播しました。

15世紀末から16世紀にかけて、これらが貴族社会や宮廷に入りこむようになると、ロマンセは新たな展開を見せることになります。

教養のある詩人や音楽家たちが、より洗練された作品に仕上げたり、新たに創作したりするようになったからです。

こうして大衆の中にあったロマンセが、文化として根づき、フォルクローレ(民謡)としての地歩を築いていくことになったのです。


さらに、そのころ実用化され始めた印刷術によってロマンセは、口承文芸から作者の名が付いた活字文学へと変貌を遂げていきます。

16世紀末になると、ルイス・デ・ゴンゴラ(Luis de Góngora y Argote、1561-1627)=写真、wiki=やロペ・デ・ベガ(Lope de Vega、1562-1635)ら当代一級の詩人たちもロマンセに手を染めるようになりました。

フランスの影響が強く、スペイン精神が沈滞していた18世紀にはいったんは衰えましたが、19世紀のロマン主義により息を吹き返します。

そして20世紀に入っても「アルバルゴンサレスの地」のマチャードや、「夢遊病者のロマンセ」のロルカといった天才詩人たちによって脈々と生き続けることになったのです。

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