2016年3月19日土曜日

二つの「道程」⑦

光太郎が「道程」として102行の初期形を9行に凝縮させたように、詩集『カスティーリャの野』にマチャードは、「Camino」のようなコプラの母型ともいえる、スペイン独自のロマンセという伝統形式による「La tierra de Alvargonzález(アルバルゴンサレスの地)」という総行数712行に及ぶ詩を載せています。

このロマンセは「善良な農夫アルバルゴンサレスの強欲な息子2人が、父の財産すべてを手に入れようと、父を殺して底なし沼へ投げ込む。その後2人は、呪われた日々の中で絶望し、父が沈む沼んでいる身を投げる」というストーリーですが、その重要な役割を担っているのも「自然」です。

光太郎の「理念としての自然」に対して、そこでは「象徴としての自然」が物語を展開しくと言えるかもしれません。なにより語り部が「水」に置かれているのです。たとえば父親を殺した2人の兄弟がドゥエロ川の上流へと向かい、身を投げる黒沼にたどり着く最後の場面「Los Asesionos(人殺したち)」の節 には、次のような描写があります。

Juan y Martín, los mayores
de Alvargonzález, un día
pesada marcha emprendieron
con el alba, Duero arriba.
(アルバルゴンサレスの 上の二人の息子
フアンとマルティンは ある日
夜明けとともに ドゥエロ川の
上流をめざして 重苦しい道をゆくことにした)

La estrella de la mañana
En el alto azul ardía.
Se iba tiñendo de rosa
La espesa y blanca neblina
de los valles y barrancos,
y algunas nubes plomizas
a Urbión, donde el Duero nace,
como un turbante ponían.
(明星が 青みがかった
空に瞬いていた
谷や渓谷を埋めた 濃く白い霧が
薔薇色に染まっていた
鉛色の雲が
ドゥエロ川の水源となる
ウルヴィオンのそそり立つ峰を
ターバンのように取り巻いていた)

Se acercaban a la fuente.
El agua clara corría,
sonando cual si contara
una vieja historia, dicha
mil veces y que tuviera
mil veces que repetirla.
(かれらは泉に近づいた
澄んだ水が流れていた
流れはまるで 千回も言い古された
昔話をつぶやいているようだった
そしてこれから千回も
繰り返すことになるだろうと)

Agua que corre en el campo
dice en su monotonía:
Yo sé el crimmen, ¿ no es un crimen,
cerca del agua,  la vida?
(野をよぎって流れる水は
その単調さでものがたる
「私は犯罪を知っている 犯罪ではないのか 
水のほとりの 生命への」)

Al pasar los dos hermanos
relataba el agua limpia:
“A la vera de la fuente
Alvargonzález dormía.”
(二人の兄弟が通りかかると
綺麗な水がまた語りかけた
「泉のかたわらで
アルバルゴンサレスは眠っていた」)

青みがかった空にまたたく星。険しい岩山、闇に包まれた松林、深い谷底。そんな中から沸き立ってくる「agua(水)」の声がやがて人を暴き立てます。

「alba」「arriba」「alto azul ardía」などと、前半で語頭が「a」の単語を並べて頭韻的な響きを作り出しています。

「mil veces(千回)」のリフレインをはさんで、招きこむように「agua(水)」が四つ繰り返され、殺人の「証人」である泉は、目撃した犯罪について語っていきます。

告発者の川は声高らかに罪をあばいていくのです。それがやがて村人の耳に届き、川の水が音を立てて流れるように、犯罪を告げるコプラ(短詩)が人々の口から口へと伝えられていくことになります。

「泉から沼までの水による聴覚的効果は全てに勝っている」(園田 守男・堀川 笙子「アルバルゴンザレスの地 : 伝説物語とロマンセ : A・マチャド」) のです。

「アルバルゴンサレスの地」で詩人は、自分のあり方を宇宙的な時間にまで広げたときにどのように位置づけられるかを、スペインのひとりひとりに問いかけているようにも思えてきます。そして、その答えは、後に生きる人々の問題として未来に開かれているのです。

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